1959年、本研究室の前身である構築工学科第4講座における研究活動が始まって以来、本研究室では、人間と建築・都市空間との関わりに基づく計画と設計に関する研究を行っています。以下にその足跡を紹介します。
1960年代は、大阪大学の吹田地区統合移転に関連したキャンパス計画を当研究室が全面的に担当しました。それに関わる施設の利用実態や都市単身者の行動環境などに関する研究が展開されています。また、豊中庄内地区に関する一連の調査と計画提案など、調査と計画が一体となった活動が展開されました。行動と環境の主要な研究課題となる経路選択の研究が開始されています。
1970 年代は、理論的研究の主要な時期で、文献研究を中心とした建築論・景観論が主流となります。海外の先駆的理論・思想を研究することにより、その思想を独自の建築論・都市論として展開することを目的としていました。また、都市化が急速に進行する中で、都市圏における居住環境・中高層住宅・高齢者住宅に関する研究、都市と農村、都市機能・事業所立地、都市空間構成など都市化の実態の理論的理解が進められました。さらに、経路選択の研究は実験的アプローチによる先進的な展開がされました。
1980 年代前半は、理論的研究から調査研究的アプローチへの転換点となりました。景観についてはスカイラインと河川景観を対象にした調査研究から、景観を視覚情報特性としてとらえるという新しい考え方が示されました。また、地下街や都市空間における歩行者の環境が行動研究の対象となり、経路探索や環境の「わかりやすさ」に関する重要な成果が生まれました。住宅分野ではコーポラティブ住宅といった新しい供給方式、都市研究の分野では24時間都市や都心部の市街地環境整備課題など、社会的動向を反映した研究が行われた。また、都市空間形成における計画誘導に関する研究が、市街地景観の評価や総合設計制度・デザインガイドラインなど各種誘導手法の研究を通して始まりました。
1990 年代にはいると、都市環境に関する研究が多様化しました。都市空間の更新が急激に進む中で、これまでの研究の展開と併せて、文化財や歴史的環境の保全と市街地変容が研究対象となりました。90年代後半は、都市の空間構造といった物的な側面を都市活動から読むことや、利用されることで空間化する広場やオープンスペースの研究、行動から都市環境を意味づける研究など、人の活動や行為とその場となる環境の関係において都市空間をとらえる方向へ展開しています。
2000年代には、これまでの建築や都市に関する理論的研究と事例的研究の蓄積を生かし、子ども・高齢者に配慮した居場所づくり、記憶の言語化と継承、コミュニティの再編などに関する実践的な研究が展開され、重要な成果をあげてきました。また、知覚・認知に関する研究は、「アフォーダンス」や「生態幾何学」の領域を開拓し、先行的な研究として注目されました。さらに、中東欧とアフリカの都市を対象に、民族・宗教・戦争・政治体制と都市組織変容との関係を解明する海外フィールド・スタディが開始しされ、地域文脈(地域コンテクスト)の概念の構築に至っています。
2010年代は、当研究室が蓄積してきた「人間・環境系」と「地域文脈」に関する理論を基に、建築論・都市論・空間論の統合が積極的に進められています。また、人口減少、大災害、貧困、生きづらさ、認知症など、建築計画・都市計画の分野だけでは解決できない複雑な社会課題を対象とし、他分野の研究者・実践者とともに、時代の転換期に対応した、建築・都市・農村に関わる新たな計画学やまちづくり学の構築を目指しています。